迷路のように入り込んだ店内を歩いていると、広い空間に出た。
「………舞台?」
やはり先程まで通ってきたところと同じく、赤で統一された空間からは、
椅子やテーブルが並んでいるのが見える。
御堂が立つ、舞台のような場所には、大小様々な玩具や拘束具、
用途不明のものが乱雑に置かれていた。
(間違いない。ここは克哉がいる場所だ)
DVDの映像で見た光景を思い出す御堂の中に、確信めいたものが生まれる。
とすると、克哉はここでも玩ばれたのだろうか。あの男などの、自分以外の男らに。
「っ…………!」
わきあがる激情をおさえ込もうと、拳を握る手に力が込められる。
とにかく、克哉を探さなければ。
歩き出そうとする御堂を、背後に立つ人物が呼び止めた。
「いらっしゃいませ、御堂孝典さん」
振り返ると、そこには数週間前に見た、DVDにいた人物がにこやかに立っていた。
「貴様……っ」
つかみかかろうと近づく御堂に、男はやんわりとたしなめた。
「愚かな行為は慎まれたほうがよろしいですよ?ここは私の縄張りなのですから」
穏やかなその声は、どこか威圧感を含んでいた。
だが確かに、ここが目の前の男の場所ならば、
下手に男に手出しを出せば何をされるかわからない。
「さすがは聡明な方。こちらにお呼びしたのは正解でしたね」
呼んだ、という表現が気になるが、とにかく今は克哉を取り返すことが最優先事項だ。
「……克哉を返してもらおうか」
強い怒りの含まれた視線を受けても男は動じない。
「あなたは誤解していらっしゃる。佐伯克哉さんを私が誘拐した、と」
「何だと?」
「彼は、望んでここにいらしたのですよ」
「ふざけるな!」
馬鹿げた男の言い分に、御堂は怒声をあげた。
「克哉が望んでこんなところに来る理由がないだろう!」
「断言できますか?」
その言葉に、当然のごとく「当たり前だ」と答えたかった。
だが、妙に自信に満ちた男の態度が気になってしまい、それを口にすることが躊躇われる。
「あなたは強い方です。そして、真っ直ぐな美しい精神をもっていらっしゃる」
「…………………」
御堂は口を挟まずに男の次の言葉をまった。
「さらに間違ったことがお嫌いで……」
「何が言いたい」
男からの賛辞は、御堂の抱く苛立たしさを増した。
「その強さは、ときに弱い人間を傷つける」
歌うように、男は言った。
「貴様は、克哉が弱い人間だから私によって傷つき、ここへ来たと言いたいのか?」
御堂は笑みさえ浮かべながら言った。
馬鹿馬鹿しいと思ったのだ。
克哉がそんなに弱い人間でないことは、
濃密な時間を共に過ごした自分が一番わかっている。
「貴様は思い違いをしているようだ。彼はそんなに脆弱な男ではない」
だが目の前に立つ男は笑顔を崩さない。
「いいえ。残念ながら、あなたが思っているほど彼は強くありませんよ。
彼は恐れているのです。あなたと共にいることで傷つくのを」
違う、と言おうとすると、不意に舞うような足取りで、男が御堂に背を向けた。
そして優雅に御堂に視線をやった。笑顔は絶やされていないのに、
その視線は思わずぞっとするほど冷徹なものであった。
「彼に会っていただければわかりますよ。
もし、あなたがおっしゃったことが合っておりましたら、克哉さんをお返しします。
さぁ、私についてきて下さい。ご案内いたします」
Mr.Rが去ったあと、再び一人になった克哉は、Mr.Rに言われた言葉を反芻していた。
御堂に、会いたい。その気持ちは自分の中に消えることなく存在している。
――弱く、矮小なあなたは、強い彼と一緒に過ごす資格なんてない――
先程Mr.Rから言われた言葉が、再び耳元で聞こえた。
克哉は、その言葉に答えるように呟いた。
◆「Mr.Rの言う通りだ」
◆「いや……それでも……」
【前へ】