前にMr.Rがビデオカメラの前で自分を犯したときのことを克哉は思い出していた。
最初はカメラの存在なんて気付かなかった。
的確なポイントをついて官能を煽るMr.Rに翻弄されるがまま何も考えずにいたとき、
不意に言われた言葉によって、克哉は身体の奥から熱が冷えていったのを感じた。
御堂さんが、オレを見ている……っ?!
撮影されている以上、リアルタイムで見られているわけがないのに、
克哉は直感的にそう感じたのだった。と同時に、強い絶望に襲われた。
もうこれで、御堂は自分のことを見限っただろう。
他の男に抱かれてよがる自分に、心底呆れてしまっただろう、と。
ぽろり、と涙が克哉の瞳からこぼれた。
生理的なもの以外の、感情による涙が流れたのはどのくらいぶりだろう。
「うっ……、く………っ」
やがて嗚咽がもれてきた。泣いても意味がないことはわかっているのだが、
涙は止まらず克哉の頬を伝い、流れ落ちる。
「会いたい……あなたに、会いたい……」
「御堂孝典さんに、ですか?」
僅かに笑みが含まれた声が、部屋に響いた。
「…………っ!」
黒い衣服を着こんだ男の姿が視界に入り、克哉の身体が反射的に後ずさる。
Mr.Rは音もなく、いつの間にか距離をつめて、
口元に薄い笑みを作りながら克哉の頬を撫でた。
どんな罰が与えられるのだろう。
恐怖で身体を強張らせる克哉にMr.Rがかけた言葉は、思いもよらぬものだった。
「その方なら、今、ここにいらしてますよ」
「えっ………?」
御堂が、きている?
信じられなかった。だが、真実だとしたら。
「何で……御堂さんが………ここに?」
独り言のように克哉が呟いた。
「あなたを取り戻しにいらしたようです」
「オレを、取り戻しに…………」
復唱するように呟いてみる。御堂は、自分を見限ってなんかいなかった。
自分の弱さに怯え、その挙げ句こんなところに連れ去られ、
Mr.Rなどに凌辱されるようなどうしようもない自分を、御堂が連れ戻そうとしている。
そう思うと、身体の奥底から嬉しさが沸き上がってきた。
希望の光が双眸に宿っていく様子をMr.Rは冷たく見つめる。
「嬉しそうですねぇ。ですが、あなたはお忘れのようだ」
Mr.Rから発せられた言葉は、氷のような冷たさを帯びていた。Mr.Rがさらに言葉を続ける。
「弱く、矮小なあなたは、強い彼と一緒に過ごす資格なんてないということを」
「うっ………」
心の柔らかい部分を、えぐりとられるような感覚に襲われた。
そう、Mr.Rの言う通り弱くて矮小な自分……、
その己を消してしまいたくて、あのとき眼鏡をかけたのだ。
「言ったでしょう?あなたには、愛する人と平穏な生活に浸ることさえおこがましいと」
「………………」
項垂れて何も言わない克哉を、Mr.Rは満足げに眺めながら静かに言った。
「あとは、言わなくともわかるでしょう。では」
言い終えると同時に、Mr.Rは姿を消した。
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