「Mr.Rの言う通りだ」
Mr.Rの言葉に、間違いがあるとは思えなかった。
貪り食われるだけの存在に成り下がった自分が、
あの人と再び一緒の時間を過ごすだなんて、許されるはずがないのだ。
「克哉……?」
部屋の扉の開く音が聞こえ、克哉がそちらに目をむけた先には、懐かしく愛しい人の姿があった。
「御堂さん………」
ベッドへ預けていた身体を起こす。自分を見る御堂の表情が歪んだ。
その様子を見て、克哉は傷だらけの身体が御堂にさらけ出されるかたちになっていたことに気付く。
「見ないで……、っ!」
少しでも肌を隠そうと、ベッドのシーツを身に纏おうとした克哉は、次の瞬間、御堂に抱き締められていた。
「克哉っ……」
温もりが伝わってくると同時に、シャツ越しにわかる御堂の身体の痩せ具合が、罪悪感を募らせた。
「辛かっただろう……。でももう大丈夫だ。さぁ、帰ろう」
そう言いながら克哉を立ち上がらせようとする御堂の手を、克哉は拒んだ。
「ごめんなさい……。オレは、あなたの元には戻れません」
「何故だ」
御堂が信じられない、という表情を浮かべる。
「オレは、あなたと一緒にいる資格なんてないんです」
「何を馬鹿なことを……」
苦しそうな声音で、さらに言葉を続けようとした御堂に、克哉が続けて言う。
「だから、もうオレのことなんか忘れて下さい」
はっきりと言い切ると、いっそ清々しい気分になった。
おそらく今の自分は、晴れやかな笑顔さえ浮かべているだろう。
「克哉……、っ!?」
御堂が何かを言おうとした刹那、二人の間に黒い人影が現れた。
Mr.Rは愉悦の色を帯びた瞳を御堂に向けると、パチリ、と指を弾かせた。
目を開くと、見慣れた自分の寝室が視界に映った。
「馬鹿な……」
ベッドから身を起こし、呆然とする。
あの店も、あの怪しい男も、克哉も、全ては夢だったのだろうか。
ただ、思い知らされることは、今ここに、克哉がいないという現実。
「克哉……」
目を閉じると、克哉の、あの痛々しいほどの笑顔がよみがえる。
「忘れられるわけ、ないじゃないか……」
目蓋の裏に浮かび上がる克哉の幻にそう語りかけると、
暗い部屋のなか、ベッドの上で御堂はうなだれた。
もう二度と、克哉を助けることができないという、そんな絶望的な予感を抱きながら。
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