月蝕

 

克哉が姿を消してから一ヶ月が経過したころ、金髪で、黒尽くめの格好をした謎の男から

克哉が凄絶な仕打ちを受けている
DVDが突然送られて、数週間が経った。






DVD
を見てすぐは、衝動にかられるがままテレビを破壊してしまうほど取り乱したが、

冷静さを取り戻したあとは、
DVDを持ってすぐさま近くの警察署へと向かう準備をした。

だが、御堂を待っていたのは更なる驚愕と、絶望であった。




御堂は、署へ向かう前に何かの時のためにと、
DVDをダビングしようとした。

しかし、何らかの細工が施されていたのだろう、
DVDのデータは跡形もなく消えていた。

データを復活させる業者にも依頼したが、無駄に終わった。



もちろん、それくらいのことで御堂が克哉を捜し出すのをあきらめることはなかった。

忙しい中、どうにか時間を捻出しては、映像で見たあのいかがわしい場所に似ているところを探した。

幸か不幸か、あの映像が二度と見られなくなったと分かってから、

一度だけしか見ていないのにもかかわらず、あの時見た内容は忘却するどころか

目に焼き付いたように鮮明なまま覚えていた。



DVD
が送りつけられてくるまえ、憔悴しきっていた精神や肉体は限界を告げていたが、

克哉の痛ましい姿を目にした今の御堂は、必ず克哉を取り戻す、という信念に支えられて動いていた。








仕事を終えたあと、すでに日課になってしまっていた車での克哉の行方探しから

家へ戻ってきた御堂は、大きなため息をひとつ吐いた。

今日も克哉に近づくことのできるような手がかりは何一つ得られなかった。

重たい疲労が全身にのしかかってくる。


「克哉……」


疲れきった身体をソファーに預け、御堂は再び大きなため息を吐いた。













「どこだ、ここは……」


気が付くと御堂は、見たことのない繁華街のど真ん中にいた。

先程まではたしかに自宅にいたはずであった。

夢でも見ているのかとも思ったが、夢にしてはアスファルトの上に立っている感覚や、

頬に当たる生ぬるい風の感触などは妙に現実感があった。



とりあえず御堂は周りを見回してみた。

居酒屋やパブなどが並ぶ風景は確かに繁華街の風景そのものであるが、

平日の夜だというのに、妙なことにそれらの店はすべての明かりが消えていた。


その中で、ただひとつの店が明かりを灯していた。

近づいてみると真っ黒な建物の前に、表札ほどの小さな黒い看板に赤い字で、


Club R

と書いてある。しかし、店の名前はわかったものの、

どんな店なのかはその看板からは何もわからない。

風俗店の類いであろうか。



「………………」


御堂はゆっくりと、目の前にある金のドアノブに手をかけた。

何故だか分からないが、この中に入らなければならないような気がしたからであった。




店に入った瞬間、御堂の目に入ったのは、深紅の空間であった。

上質そうな絨毯も、壁も、すべてが赤で揃えられていた。

そして、部屋の中には、甘く、頭の芯を痺れさせるような不思議な香りが漂っていた。


店内には従業員の姿が一切見当たらなかった。

それなのに、人の気配は感じる。だが客が来店したというのに、

いつまで経っても人が出てくることはなかった。

そんな店の空気を不気味に感じながらも、御堂は店の奥へと足を進めた。






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