艶夜-enya-

 

 

「今日はいつもとは違った趣向で楽しみましょう」


と、克哉に言われて数分後。

何をするつもりなのかきちんと問いただすべきだったと、御堂は心底悔いていた。
 



御堂の身体はベッドの上に仰向けに乗せられ、両腕は布で縛られ頭の上に固定させられている。

視界はアイマスクで遮られていて、克哉を睨むどころかその居どころさえ分かることができない。

クーラーがきいている室内の空気が一糸もまとわぬ身体を撫でていて、少々肌寒くも感じる。

「佐伯…………」

とりあえずこんな格好をさせているあの変態の名前を呼んでみる。

返事はなかったが、近くの空気が揺らぎ、克哉がこちらに来たことはわかった。

「すみません、お待たせして」

かけられた言葉のなかに、微かな愉悦が含まれているのが感じられた。

一体この男は今から何をするというのか。とりあえず、ろくなことはしないだろう。

「君は、何を……、うわっ」

せめて心の準備はしておこうと思い、問いかけようとしたそのとき、

上から胸元の辺りに液体のようなものがかけられた。

粘度があるそれは、ローションのようなものか。

「いきなり、何をするんだ」

何の断りもなく得体の知れないものを身体にかけてきたことに

文句を言うが、克哉は悪びれる様子もなく言った。

「まぁまぁ、そう怒らないでくださいよ。すぐによくなりますから」

よくなる、という言葉が御堂には非常に不穏なものに聞こえた。

ベッドの揺れから克哉が上に乗ってきたことがわかり、御堂の身体が微かに緊張で強ばる。

克哉の手が、胸元に広がる液体をのばすように御堂の肌を撫で始めた。

まるでマッサージをしているような動きであるのに、

視界を奪われて感覚が鋭敏になっているのか、身体の奥が疼く。

「…はぁっ…………」

指が乳輪をなぞりはじめた。その焦らすような行為が、妙に性感を煽る。

「もう感じているんですか?まだ乳首にも触れていないのに」

「ちがっ……」

揶揄するような台詞に対してとっさに否定すると、克哉は喉奥で笑いながら言った。

「ここは、触って欲しそうに尖りきってますよ?」

そんな言葉が聞こえた刹那、明らかに指とは違う感触が、胸の突起の先端をつついた。

「ぁあっ!」

僅かな刺激に対し、大袈裟なほどに上半身が跳ねる。

恥ずかしくて、御堂は思わず顔を背けた。

「なぁ御堂。これだけでこんなに反応するんだ。下を触らなくてもイけるんじゃないか?」

「馬鹿っ、さすがにそれは……」

無理だ、と思いたかった。

「試してみましょうか」

悪魔の囁きが、耳元で甘く響いた。試してみたい。淫らな欲望が膨れ上がる。

と同時に、理性がその欲望を抑え込もうと警鐘を鳴らす。流されるな、というように。

「試しましょうよ」

再び、甘い誘惑が耳から脳へと注ぎ込まれるように届いた。

それでも頷かずにいると、返事を急かすように克哉の舌が耳を舐めた。

沸き上がる甘美な衝動に、理性は脆くも砕け散った。

「……っ!…わ、わかった」

口にした言葉は、当の御堂自身ですら驚いてしまうくらい、ねだるような上擦ったものであった。
 
 
 

「う、…ふ、ぁあ……ッ!」

指と指の間に敏感な突起を挟み込まれ、ぐりぐりと刺激を与えられる。

刺激が与えられるたびに、甘い痺れが乳首から全身へと広がっていった。

「ひっ、…佐、伯……こんな、おかし……っ」

快楽の波に翻弄されながら、御堂は一つの疑問を胸に抱いていた。

いくら視覚を封じられてその他の感覚が鋭くなっているとはいえ、

胸を弄られただけでこんなに乱れるものなのか、と。

「あぁ、このローション、媚薬成分も含まれているらしいからな」

「なっ……」

克哉の言葉に絶句する。と同時に、道理でいつもよりも敏感に反応してしまうのかと納得した。

そして、そんな妙なものを勝手に使った克哉に怒りにも似た感情がわく。

「お前、勝手に……、ぁ……そんなものを使うな!」

とりあえず、無駄ではあろうが文句だけは言っておいた。

克哉の姿が見えないのでわからないが、

恐らくニヤニヤと笑いながらこちらを見ているのだろうと思いながら。

「…説明せずに使ったのは悪かった」

「……え?」

返ってきた言葉は予想に反して、非常に申し訳なさそうな声音だった。

そんな風に言われると、逆に気勢を削がれてしまう。

「い、いや……、別に……次からは事前に断ってくれれば……」

そこまで言って、御堂はしまった、と思った。

「わかりました。今度からはちゃんと説明してから使いますね」

してやったり、といったような感じの克哉の言葉に、

御堂は克哉に対してではなくむしろ己の迂濶さに対して腹が立った。

「ち、違う!そういう意味では……ァアッ!」

「さぁ、再開しましょうか」

有無を言わさず、克哉の指が御堂の胸板をさすり始めた。

催淫効果があるというローションのせいで、克哉の手が肌を滑るたびに、

身体の奥底から甘く痺れるような快感が沸き上がってくる。

最初は肌寒くも感じていたのに、今や肌は火照って暑くすら感じる。

「すごいな……。あんたのココ、触れてもいないのにギンギンに硬くなってますよ」

「やめっ、見るな……っ」

きっと淫らな液体を垂らしながら屹立しているそこを、

見られていると意識するだけで羞恥心に苛まれる。

「見るな、と言う割には見て欲しそうにいやらしい液体が溢れてきているぞ?」

「うるさいっ……この、変態!」

楽しそうな克哉の様子が憎たらしくて、思わず悪態をついてしまう。

克哉は別に悪態をつかれても怒ることはないのだが、

この男の場合、逆に調子に乗ってくるからたちが悪い。

「そんな変態によがるあんたも十分変態だぞ?」

「…………っ!!」

言い返す言葉が思いつかない。

催淫効果で頭のはたらきが鈍っているという、圧倒的に不利な状況下で克哉に舌戦を仕掛けること自体が

愚かしいことなのは分かりきっていた。それでも挑もうとするこの性格は恐らく一生直らないだろう。

もっとも、直そうとも思ってないが。

「さて、おしゃべりはこれくらいにして」

「は、ぁあ!」

ローションが足され、音が出るほど激しく突起の先端を擦られる。

電流のような激しい快楽が御堂の思考を真っ白に染め上げていった。

「あ、ダメ、だ、佐伯っ!そんな、されたら、んん!!」

「イけよ」

甘く囁かれた数瞬後、御堂の身体が大きくしなった。

「ァアア……ッッ!!」

全身をわななかせながら、御堂は絶頂に達した。

迸った白濁が、上半身に塗られた透明なローションを白く彩った。
 
 




 
 
「まったく……」

あのあと二回ほど克哉に抱かれた御堂は、ローションやらなんやらで

ベトベトになった身体を、バスルームで克哉に洗わせていた。



いや、洗われていた、というほうが正しいかもしれない。

というのも、本当は自分で洗い流したかったのだが、足腰が立たなくなったため、今の状況にいるのだ。


「まさか、他にもあんな下世話なものを買っていないだろうな」

背後から手を回して上半身をゆすぐ克哉に訊ねてみる。

「買ってませんよ。あれ以外は」

「本当だろうな」

「あれ、信じてくれないんですか?」

「そういう訳ではないが……、っ、こら、何している!」
 
克哉の指が後孔の縁に触れて、御堂の身体に緊張が走った。

「ここも綺麗にしないといけないでしょう?」

悪戯っぽく笑いながら、克哉はまるで行為前にそこを解すようになでていた。

明らかに御堂の反応を楽しんでいる。

「それはそうだが……、自分で、やるから……っ」

「遠慮しないでください。ね?」

御堂に構わず、するりと指が侵入させてきた。

先程まで雄をくわえていたそこは、克哉の指をすんなりと受け入れる。

中の精液を掻き出そうとする動きが内壁を刺激して、やっと鎮まりかけていた熱が再び蘇ってきた。

「くっ……ふ………」

堪えきれずに床に手をつくと、自然と克哉に対して尻を突き出す格好になる。

翻弄されるのが悔しくて、克哉の方を振り向いて睨んでみた。

だが、頬を紅潮させながら涙目で睨み上げる様は、

克哉を誘うのに十分だということを、御堂は自覚していなかった。

「御堂さん……、誘っているんですか?」

それまで中の液体を掻き出していた指が性急に抜かれ、両手で腰を持ち上げられる。

それまでの態度が一変して余裕のないものになった克哉に対し、御堂はとても嫌な予感がした。

「ま、待て、佐伯っ!……ひ、ぁあ!!」
 
 


いやな予感ほどよく当たるもの。数分後には、御堂の嬌声がバスルームを満たしていたのであった。
 

 

 

モドル