「ここでいいでしょう、停めてください」
しばらく経って、克哉が痺れを切らしたように御堂に車を停めるよう言った。
あれから御堂はいっこうに停車する気配を見せなかった。
それもそのはず、熱が引いてきて冷静になった御堂は、とりあえず走行し続けておこうと考えた。
無論、そんなことをしても何の解決にもならないのだが、克哉の思惑通りにうごくのは我慢ならなかったのだ。
だが、そんな考えがいつまでも克哉に通用するわけもなく。
御堂は仕方なく車を停めた。車を停めたところは、めったに人の通らない路地裏だった。
克哉はシートベルトを外しながら、御堂に言う。
「エンジンも止めてもらいましょうか」
「…………」
言われた通り、エンジンを止め、克哉の様子を伺いながらキーを抜く。隙を見て逃げよう、そう考えながら。
「あぁ、シートベルトは外さないでください」
シートベルトを外そうとした手を押さえつけられ、ベルトを外された。
「なっ……やめろ!」
下着の中に手を入れられ、御堂は身を捩って克哉から逃れようとするが、シートベルトがその動きを封じる。
「うぁ……っ」
克哉は柔らかいそれを引き出し、巧みに快感をわき起こしていく。
御堂は、敏感に反応して硬くなっていく自身から目を背けた。
「くっ……、はな…せ!」
御堂の制止など聞く耳持たず、克哉は狭い空間のなかで器用に身体を動かして、
空いている手でセーターベストの中へ侵入し、御堂のシャツのボタンを外していった。
ボタンを外し終えると、克哉の指は御堂の素肌をなぞる。
その感触に嫌悪感を抱いているはずなのに、克哉の触れたところは熱く火照っていった。
「乳首が立っていますよ?御堂部長はカーセックスもお好きなんですね」
「ふざけ…、ァアッ!」
克哉の嘲弄にカッとなって怒鳴ろうとしたが、乳首を強く摘ままれて怒声は嬌声へと変わる。
「いい加減、素直になったらどうです?あなたの身体は、こんなにも俺に犯されたいって言ってますよ?」
「……っ、馬鹿げたことを言うなっ!」
だが、克哉の言う通り、御堂の身体は心とは裏腹に次なる刺激を欲している。
それでも御堂はただなすがままに犯されようとは思っていなかった。
身体はベルトに固定されているが、両手の自由はきく。
御堂をなぶることに集中している克哉に一撃を浴びせることは不可能ではない。
怯んだ隙を見て、ベルトを外してしまえばこの状況を打破することもできる。
そのとき、肉茎を強く握られた。
「痛っ……!」
「御堂さん」
間近にある克哉の瞳が、冷たい光を宿していた。御堂の背筋に冷たいものが走る。
「抵抗しようとしても駄目ですよ」
「何の…ことだ……」
しらを切るしかなかった。どうやら、不穏な気配を察知したらしい。
そういえばオリーブオイルの瓶でなぐりつけようとしたときも、この男は素早く気付いて受け止めてしまった。
危険察知能力は恐ろしいくらい高いようだ。
「しらばっくれないでください。あんたのことだ、瓶で殴ろうとしたときみたいに、また何かやろうとしたんだろう?」
「くっ………」
見事に見破られ、何も言い返すことができない。
克哉は御堂自身を強く握ったまま、助手席の足元にある鞄を引き寄せ、なかから手錠をとりだした。
「お仕置きをしなければいけませんねぇ」
肉茎から手を離すと、克哉は御堂の両腕をとって、背中の後ろにもっていき、
手錠をかけて拘束した。かわりにシートベルトは外された。
「くそ、これを外せ!……っ!?」
怒声をあげた瞬間、座席を後ろに倒された。
急に座席を倒された驚きとともに、体重が拘束された手首にかかり、その苦痛で御堂の顔が歪む。
克哉はさらに御堂のパンツを下着ごと無理やり脱がせた。
露になったそこに、克哉は御堂の先走りを指に絡めてゆっくりと挿入していく。
「ふ…ぁ……。やめろ……、ぬけ……、んっ!」
指の侵入する違和感は、快感に飢えている身体が勝手に快楽へとすり替えていく。そんな己の肉体がおぞましい。
「嘘をつけ。あんたの中は俺の指を食い締めてくるぞ?」
克哉の嘲笑が耳元で聞こえた。挿入する指の本数が増え、御堂の内部をかき回す。
唇を噛み締めて喘ぎ声を漏らさないようにしているが、それでも悩ましい声が唇の端からこぼれてくる。
快楽に溺れまいと必死に理性を働かせている御堂の姿は、克哉の劣情をさらに煽った。
克哉は内部を解していた指を抜いた。
ほう、と息をついた御堂は、ガチャガチャという、ベルトを外す音に身を強ばらせた。
「い、嫌だ……」
車内で逃げ場もないのに、御堂は後じさろうと身体を捩らせる。
克哉はそんな御堂の反応を楽しみながら、屹立した肉棒を御堂の後孔に宛がった。
「やめて…くれ……」
消え入りそうなくらいの小さな懇願は、無情にもまったく聞き届けられなかった。
「ァアアッッ!!」
御堂の悲鳴が狭い空間に響き渡る。
「どうです?愛車の中でヤられる気分は」
愉悦を含んだその言葉が、御堂の屈辱感を増大させる。
御堂は、身体の自由がきく状態ならば、殺してしまいそうなくらいの怒気が込められた視線を克哉にぶつけた。
「へぇ……、まだそんな生意気な目をする余裕があるんだな」
克哉は口許を笑みのかたちに歪めたが、レンズの奥の瞳は冷徹な光を帯びていた。
律動が御堂を追い詰める激しいものになっていく。
「は、……ぁあッ!」
一気に強い快楽が御堂に牙を剥いて襲いかかってきた。
手錠をかけられた手首が圧迫され、背中と擦れて痛むが、
そんな痛みを忘れさせられてしまうような激しい快感が御堂の身体をかけめぐる。
生理的な涙が、御堂の頬を伝って落ちた。その涙が伝ったあとを、克哉が指でなぞる。
その手つきが妙に優しくて、身体の奥がざわめいたが、御堂は気付かなかったことにした。
「ほら……、泣くほど気持ちいいんだろう?認めてしまえよ、俺にヤられるのが好きだって」
低い声でささやかれる言葉を御堂は首を横に振って否定した。
「こん、な……ことをしても……、無駄だ………っ」
喘ぎ声をこぼしそうになるのを堪え、どうにか言葉をつむぐ。
どうせ無視されるか流されるだけなのであろうが、せめて言葉でだけでも抵抗したかった。
「無駄なんかじゃないですよ。現にあんたはこんなにもよがっている」
「ぁあっ……!」
先端がもっとも弱いところを突いて、一際高い嬌声があがった。
「俺なしじゃいられない身体にしてやるよ……っ!」
克哉が御堂の中を蹂躙する。座席の上で、御堂の身体がビクビクと震え、限界が近いことを克哉に告げていた。
「嫌、だ……、ぁあ…、…いや………っ」
もう何を拒絶しているのかわからないほど快楽に翻弄される。御堂が頭をふるごとに涙が散った。
「ぁ、ァアア……ッッ!!」
絶頂に達し、精をほとばしらせたのを感じながら、御堂は意識を手放した。
どのくらい意識を失っていたのだろうか。目を開けて、車内を見回した。克哉の姿は見えない。
だが、車内に篭る臭いが、あの忌まわしい行為が現実に行われたものであることを再確認させた。
とりあえず身体を起こそうとすると、手首に痛みが走った。
見ると手錠はすでに外されていたが、赤い圧迫痕と擦過傷ができていた。
ゆっくりと身体を起こし、精液で汚れた身体をとりあえずティッシュで清める。屈辱感でティッシュをもつ手が震えた。
とりあえず清め終え、座席の下に落ちていた衣服を取ろうと動いたとき、
後孔から何かがどろりとこぼれてきた。目で確認しなくても、それが何であるかはわかった。
(くそっ……!)
手首が痛むのも構わず、御堂は血が出るのではないかと思うほど強く拳を握った。
とにかく、家に戻って身体全体を清めたかった。
御堂はさっさと服を着ると、自宅へと車を発進させた。
モドル