目を開けると、そこには真っ赤な世界が広がっていた。
「Club Rか……」
赤いカーテンに赤い絨毯。部屋に置かれている調度品の色も
赤で統一されたこの部屋は、Mr.Rが所有している場所であった。
「ようこそいらっしゃいました、我が王よ」
声とともに、どこからともなく黒ずくめの男が目の前に現れた。
克哉はレンズの奥の目を眇め、Mr.Rを見た。
ここに来る前は確か、御堂と一緒に自分の部屋にいたはずだった。
記憶は、御堂が買ってきた柘榴を食べたところでふっつりと途切れている。
「こんなところに俺をわざわざ呼び出して、一体何の用だ?」
問いながら、部屋を見回した。今までに、何度か柘榴を口にすることによって
この部屋に招かれたことがある。先程の柘榴が原因でこの部屋に来たのであれば、
あのとき一緒にあの柘榴を食べた御堂もいる可能性がある。
だが目の前にいる男と自分以外の人間の姿を見つけることはできなかった。
「本日は、王にプレゼントを差し上げるためにお呼び致しました。あぁ、お探しの方でしたらご心配はいりません」
思考を読まれたことに不愉快さを抱きつつも、恐らく御堂に危害を加えてはいない
らしいということは分かって、克哉はふう、とため息をついた。
そして、胸に抱いていたもうひとつの質問を投げかけた。
「ところで、なぜお前が俺にプレゼントをくれるんだ?」
AAの設立祝い、にしては遅すぎるし、第一この男がそんな殊勝なことをするとは思えない。
すると、Rは待っていたといわんばかりの満足そうな笑みを浮かべて答えた。
「来るべき悦楽の日々への、前祝いです」
「来るべき悦楽の日々?なんのことだか、さっぱりわからないな」
「近々、お分かりになりますよ」
Rの言うことは理解できないが、聞いたところでまともに答えそうな男ではない。
そう考えた克哉はとりあえずプレゼントについて聞くことにした。
「まぁいい。ところで、お前の言うプレゼントとは何だ?」
「それは、ご覧になればわかります。さあ、どうぞ。奥の部屋へ」
Rに誘われるままに、克哉は部屋の奥へと足を進めた。
薄暗い部屋の奥には、重厚な紅の鉄扉がどっしりと構えていた。
Rがパチリ、と指を鳴らすと、その扉は軋んだ音をたてながら、ゆっくりと開いていった。
中へ入ったとたん、扉は軋んだ音を立てて再び動きだし、閉まった。
閉まる間際、Rの愉悦を含んだ声が聞こえた。
「どうぞ、思う存分に味わって下さい」
扉が閉まったことには構わず、克哉は部屋の真ん中へと歩いていった。
そこには、大きなベッドがあり、そして、人のいる気配がした。
「………!?」
そこにあったのは、信じがたい光景だった。艶々とした光沢を放つシーツの上には、
最愛の人が横たわっていた。日焼けのない白い素肌には、
クリームと赤い蜜、そして様々な果物で彩られている。
「佐伯……!」
克哉がいることに気付いた御堂は、羞恥で頬を赤く染めた。
(これが…アイツの言うプレゼント、か)
どのようにしてここまで仕立てあげたのかはわからなかったが、大方Rかその手下辺りがこしらえたのだろう。
自分以外の奴が御堂の身体に触れたことは気分のいいことではないが、
このような下世話な趣向とは一生関わりそうもない御堂のその姿を見られたことで今回は許してやることにした。
「御堂さん、そういう姿も似合いますね」
「……悪趣味だな」
御堂が睨んでくる。といっても、怒りによるものではないことは分かっている。
克哉はにやりと笑いながらベッドへ上がった。
服が汚れるのも気にせず御堂に覆い被さる。甘い香りが鼻腔をくすぐった。
「大体何故、いつの間にこんな状態に……」
御堂がそんな疑問を抱くのはもっともである。
だが、Rが言っていたことを教えたところで、疑問が解決するどころか
さらなる混乱を呼ぶだけであろう。克哉はとりあえずしらばっくれることにした。
「まぁいいじゃないですか。そんなことより、俺は貴方を食べたい」
言い終えると同時に克哉は御堂の胸元へ舌を這わせた。
クリームの甘さが口に広がる。その下に隠れていた乳首を探り当て、舌で軽くつついてやった。
「んっ……」
甘いしびれが走ったのか、御堂はぴくりと小さく震えた。
それでも御堂はまだ快楽に流されることなく、気丈に克哉を睨む。
「何馬鹿なことを言っているんだ…っ……、少しはこの状況を、不審に思え……っ」
与えられる愛撫の快感のせいで言葉を詰まらせながらも御堂は言い返してくる。
だが、そうやって強気でいられればいられるほど、
いじめたくなるということをこの恋人は未だにわかっていないらしい。
「確かに、妙な状況だと思いましたが……。
こんなに美味しそうな御堂さんを見たら、そんなこと、どうでもよくなりました」
「なっ……」
「ねぇ、いいでしょう?食べさせてくださいよ」
身を乗り出して耳元で囁いた。そのまま耳朶を甘噛みし、耳の穴へ舌を差し込んで御堂の官能を煽る。
「…ん………」
唇からこぼれだしそうになった喘ぎを押し殺す御堂に対し、克哉は下へと手を伸ばした。
そこでは、案の定欲望がそそりたち、御堂を飾る蜜とは異なる蜜がこぼれていた。
克哉がその屹立を指でなぞると、御堂はびくり、と大きく身体を震わせた。
「ほら…ここはもうガチガチじゃないですか」
次々と流れてくる蜜を指に絡めながら、裏筋を優しく撫でてみる。すると御堂は身を捩らせて甘い声を上げた。
「ぁあっ…、…っ」
その甘い響きに性急に抱きたくなる衝動を抑えて御堂自身から指を離し、後孔に指をはわせた。
指先でアヌスの縁をなぞると、御堂はじわりとわいたもどかしい感覚に焦れたように声を上げた。
「…ん……さえ、き……っ」
「何です?」
頬を上気させ目を潤ませた御堂が次の快楽をねだるように克哉を見つめる。
だが克哉は、意地悪くアヌスの縁に触れていた指を離してしまった。
「あ…………」
不満げに御堂が克哉を見上げる。中途半端に熱を上げられた身体が克哉の下で小さく揺れた。
「さぁ御堂さん。どうします?俺のお願い、聞いてくれますか?」
「…………」
御堂は目をそらして少しのあいだ口を閉ざし、そして、
「……わかった…」
小さな声で了承した。
「さて……と」
クリームなどで汚れた服を早急に脱ぎ捨てた克哉は、再び御堂に覆い被さった。
「いただきます…御堂さん」
御堂の身体を包むクリームを指に塗り、小孔へゆっくりと挿入した。
「ぁァア……ッ!」
待ちかねていたかのように、内壁が克哉の指を締め付けた。
克哉は空いている方の手で御堂の上に乗っかっていたブルーベリーを
一粒摘まむと、それを口に入れた。一噛みすると甘酸っぱい果汁が口の中に広がる。
克哉はそのまま甘い呻吟を洩らす唇へ唇を重ねた。
「んっ……ふ………」
舌に先程の果実を乗せて一緒に口内へ侵入する。時おり洩れるくぐもった声が克哉の耳に甘美に響いた。
「んぅ…ぁ………」
実を御堂の口内へ残して、克哉は口づけを解いた。
「甘いな……」
果実を飲み込んだ御堂がそう呟く。
「あぁ…。だが……」
頷きながら内部を解していた指を抜く。入れ替わりに猛った克哉自身を
後孔に宛がい、先端をゆっくりと御堂の中へ入れていった。
「っ、ァア……!!」
奥へ奥へと突き進んでいくと、御堂の身体がしなやかに跳ねた。
深い律動を与えてやると、内壁が締め付けてきた。その感触が、克哉自身にも甘い悦楽を与えてくる。
「あんたの中の方が、甘いぞ……っ」
「なっ…馬鹿……っ。はぁ……!」
気恥ずかしさから、御堂は熱に潤んだ瞳で克哉を睨むが、その行為は克哉の情欲をさらに煽った。
肉棒の先端で御堂の最も弱いポイントを探し当てて抉る。
突然与えられた激しい快楽に、御堂が身体を大きく反らせながら喘ぐ。
「ひぁ!…いきなり、そん…な、激しく…するなっ……ァア!」
背中に回された腕に力がこもり、爪が克哉の背中に食い込んだ。
内壁の強い締め付けに達してしまいそうになるのをぎりぎり堪え、
クリームで滑る腰をしっかりと捕らえながら、御堂の内部を力強い律動で奥まで味わっていく。
「凄いな…あんたの中……っ」
御堂のなかは、克哉の肉を逃がすまいと締め付けてくる。
「さえ、き…っ……。もう、ダメ…だ、…ぁ……ッ」
御堂がせつなげに限界を告げた。御堂のモノは今にもはち切れそうなほどに
膨れて、クリームの上に透明な雫を垂らしている。
「わかりました……っ」
克哉の動きが、より激しくなる。御堂はひっきりなしに甘い嬌声を上げながら、絶頂へと登り詰めていく。
「ァァアッッ……!!」
ひときわ高く声を上げて、御堂は達した。
「くっ……」
遅れて克哉も、御堂の中へ欲を放った。
萎えた自身を抜き、吐精して脱力している御堂に軽く口づけをする。
「ごちそうさまでした」
悪戯っぽく笑うと、御堂は頬を赤く染めて、
「馬鹿」
と悪態をついた。その恥ずかしそうな表情が、鎮まりつつあった熱を再びよみがえらせた。
「ねぇ御堂さん」
「なんだ」
「お代わりしてもいいですか?」
「……!?馬鹿なことを言うな!」
さらりと言った克哉に対し、御堂が呆れた顔をして答えた。
そんな御堂の言葉をきれいに無視して、克哉は御堂の肌に舌を這わせる。
「んっ、…こら、やめ……。…ぁ……」
絶頂を迎えてすぐの身体は、少しの愛撫に敏感に反応した。
御堂は、克哉の与える快感に抗いきれず、再び快楽の海へと溺れていった。
「お楽しみいただけているようで何より……。ですが、やはり、今の佐伯克哉様は物足りない」
克哉と御堂がいる部屋の隅にある闇のなかで、Mr.Rが静かに呟く。
「まぁ、またこの眼鏡をかけていただければ、再び完璧な王に戻られる……」
レンズの奥の妖しい光を宿した瞳に、手のひらに乗る眼鏡が映った。
「来るべき悦楽の日々。そろそろその幕を開けさせてもらいましょう」
快楽にふける二人の姿をちらりと見ると、Mr.Rは館の奥へと消えた。