retribution

 

何時間くらい経ったであろうか。


克哉はふっと目を覚ました。

毒々しいまでに赤い色で統一された部屋の中が、克哉の瞳に映った。

(ここは……)

起き上がろうと身体に力を入れたとき、克哉は自分の身体の異変に気付いた。

自分の腕は手錠と縄で縛られてつり上げられ、両足首はバーで固定されて開脚させられていた。

身体にはシャツが一枚着せられているのみで、下半身は露になっている。

(な、何だ…これは…っ!?)

足に施されている拘束具に既視感を抱く。

それが数日前居留守を使った御堂に使ったものと同じ拘束具であることを思い出すのに、大して時間はかからなかった。

(どういうことだ…?)

意識を失う前の記憶の糸を手繰り寄せる。


 



今朝のことだった。


いつものように出社した克哉を待っていたのは、数台のパトカーと警官や刑事たちだった。

何でも、キクチの社員が恐喝事件を起こした、のだという。

それだけならまだよかった。犯人が他人だったなら。だが、彼らが逮捕しようとしていたのは、…克哉だった。

そうと分かっても社屋へ入ろうとする克哉を、どこからともなく姿を現したMr.Rが止めた。

促されるまま克哉は公園へと連れてこられた。

「あなたのやり方は少々強引過ぎたようですね」

まだ状況が飲み込めていない克哉に、Mr.Rはそう静かに告げた。

先日の取引の際、契約を結ばせるために強引な手段を使ったことが、克哉の頭に蘇った。

「どうやら私は、あなたを少々買いかぶりすぎていたようです…。残念です、本当に」

Mr.Rの冷たい声が耳に届くと共に、克哉の意識はそこで途切れたのだった。



 
「くそっ!」

とにかく手の拘束を解こうと暴れてみるが、手錠ががちゃがちゃと音を立て、

縄が肌に擦れて痛みが生じるのみだ。それでも克哉は強引に拘束を外そうと暴れる。

そこへ、部屋の扉が開いた。

「クク…。そんなことをしても外れないぞ?」

聞き覚えのある硬質な声が部屋に響いた。扉から姿を現したのは、見慣れた長身の男。

「御堂…っ!」

「目が覚めましたか」

その後ろから、Mr.Rが現れた。その手には黒革の馬上鞭が握られている。

「貴様、一体どういうつもりだ!」

怒鳴る克哉へ、Mr.Rは氷のような微笑を向けた。

「今度はこの方が、あなたを思うがままにする番になったのです」

「なん…だと?」

「あなたは強引な手を使って、この方を支配しようとした。己の欲望のままに…」

優しげな声の中に、どこか氷のような冷たさが含まれている。

「取引先の相手にあのようなことをしたので、心配していたのですが…案の定、あなたは大失敗をしてしまいました」

二人がゆっくりと克哉へ近づいてくる。

「王となる資格を失ったあなたには、他者に従属する道しか残されていません」

冷たい鞭の先が、頬をつっとなぞった。

「ふざけるな。俺が誰かに従うだと?バカも休み休み言え」

低い声に殺意を込めて、克哉は二人を睨んだ。他人に従うなど、考えたくもなかった。

「とにかく、これを解け!俺を解放しろっ!」

「おや?まだご自分の立場が分かっていないようですねぇ」

克哉を見つめるレンズの奥の瞳が細められる。

声音はやわらかいのに、何故かそこはかとなく恐ろしく感じた。

「では、この方にご自分の立場がどういうものなのか、分からせて差し上げてください。御堂孝典さん」

そう言うとMr.Rは持っていた鞭を御堂に手渡した。

「それでは、ごゆっくりと」

Mr.Rが出て行き、部屋には克哉と御堂の二人だけになった。


「いい様だな、佐伯克哉」

ぴたぴたと鞭の先端で頬を軽く叩かれる。

御堂は、克哉が今までに見たことがないくらい冷たく、嗜虐欲に満ちた笑顔を浮かべていた。

元々顔立ちの整った御堂が浮かべるその表情は、ぞっとするくらい美しく、そして冷酷なものだった。

「私にあれだけのことをした人間だとは思えないな」

愉快げに口角を上げる御堂に、克哉も不敵な笑みを浮かべて負けじと言い返す。

「そうか。なら、もう一度アンタを抱いてやろうか?アンタは他人に犯されているほうが似合うからな」

だが、御堂は挑発的な克哉の言葉をさらりと受け流した。

克哉の顎を捕らえて顔を寄せると、にやりと笑いながら克哉にこう告げた。

「そんな減らず口、二度と叩けないようにしてやろう」
 
 


「んっ…ぅ……っ」

部屋へ、時折くぐもった声がこぼれる。

御堂は克哉の口内を貪りながら、後孔に入れた指を蠢かしていた。

異物感に眉をひそめる克哉の表情を見て、御堂の胸に今までにない高揚感が沸き起こる。

「……っ!!」

ある箇所を指がかすめたとき、克哉の身体がびくん、と震えた。

「ここか」

唇を解放し、探り当てた敏感な部分を何度も擦りながら克哉をまじまじと見つめる。

頬に紅色が走り、レンズの奥の瞳が涙に滲んでいた。

かつて、御堂を追い詰めたあの鋭い猛禽のような目は、ここにはなかった。

御堂を睨むその目にあるのは、屈辱と、快楽の色だけ。

御堂は指を抜くと、下着ごとズボンを脱ぎさっていきり立った自らを克哉の後孔へあてがった。

熱く硬い感触が押し当てられるのを感じ、克哉の顔が引きつる。

「御堂、やめっ、…ぐぅ…ッッ!!」

拒絶の言葉は、苦痛によるうめき声に変わった。頭上で鎖の音がやかましく鳴る。

足を抱え上げられるきつい体勢に加え、御堂のモノが割って入ってくる痛みで、克哉は呼吸するだけで精一杯だった。

「きついな…」

欲に掠れた呟きを洩らしながら、それでも御堂は腰を進めた。

御堂が大きな動きで克哉を蹂躙していくたびに、克哉の背中がしなる。

だが、中が切れたのか、やがて動きが楽になってきた。

「く…っ……」

克哉は額に汗を滲ませながら、ひたすら痛みと屈辱に堪える。

その表情を堪能しつつ、御堂は先程探り当てたポイントを突いた。

「んっっ…!!」

途端、克哉の唇から苦痛で上げる声とは明らかに違う喘ぎが漏れた。

「ここか」

満足げに喉を鳴らす御堂を、克哉は憎悪の光を宿した目で睨んだ。

切れてしまうのではないかと思うくらい唇を強く噛む。


かつての自分のようだ。


御堂はふとそんなことを思った。

「皮肉だな…」

ぽろりと洩らした一言には、何の感情もこめられていなかった。克哉も怪訝そうに御堂を見る。

「こうしてみて、お前が私を辱めた気持ちが分かったような気がする」

「どういう…ことだ?」

問いかけながらも、克哉はじりじりと腰を引いて自分を貫く御堂自身を抜こうとした。

だが、御堂はそれを許さず、克哉の肩を掴んで押さえつける。

「うぐ…っ」

身体が下がることで腕が引っ張られ、手首の皮膚が擦れた。

「抵抗されればされるほど……屈服させたくなる」

無感情だった声に、劣情が混ざる。

克哉を見つめる紫色の双眸に、情欲の光が灯っていた。

突然、御堂が腰の動きを早めた。

「うぁ…っ!」

痛みと快楽が一挙に襲い掛かってきた。声を押し殺そうにも、甘い声が虚しく部屋へ響く。

「お前を支配してやる…快楽で、な…」

欲にまみれた御堂の言葉が、克哉には悪魔の言葉に聞こえた。

「誰がっ…ぁ…ん…‥っ」

電流のように走る快感が、克哉から抵抗する力を奪っていく。

紺碧の瞳は熱に浮かされて、涙をたたえていた。

その涙は、御堂の揺さぶりでこぼれ、克哉の頬を濡らす。

「くっ……」

克哉の内壁が御堂自身を締め付けた。限界が近いらしい。

視線を転じれば、克哉自身ははち切れんばかりに高ぶり、先端から流れる蜜で濡れそぼっていた。

「ふ…、もうイきそうだな…っ、佐伯…」

「く…ぁ…っ…」

快感で身悶えながらも、克哉は御堂に憎悪の視線をたたきつけた。

屈する気配のない克哉に、御堂の征服欲が駆り立てられる。

克哉の敏感な部分を責め立て、一気に絶頂へと向かわせる。

次の瞬間、克哉の身体が硬直した。そして。

「――…っっ!!」

声にならない声が、部屋へと響き渡るとともに、御堂の腹の下で白濁した液が迸った。

強い収縮が御堂自身に与えられるが、どうにか堪えた御堂は、

絶頂を迎えて敏感な克哉の中を再び蹂躙し始めた。

脱力していた克哉の身体が人形のように揺れる。

半分意識を失いかけていた克哉の耳に、御堂の言葉が残酷な響きを持って届いた。
 




「もう、お前は私のモノだ…。一生、私が飼ってやる…」