それはある月曜日の昼前の出来事だった。
キクチとのミーティングを終えた御堂は、オフィスへ戻り、普段の業務に取り掛かろうとしていた。
(……ん?)
席に着いたとき、御堂は自分のデスクの上に丸い物体が転がっているのに気が付いた。
(……柘榴か)
手に取ってみると、甘酸っぱい芳香がふわりと舞う。
割れ目からのぞく暗紅色の粒は、部屋の明かりを受けて艶々と光っていた。
(何故ここに柘榴が……?)
朝オフィスへ入ったときには、この柘榴はなかったはずだ。
ミーティングの間部屋を空けてはいたが、そのときに何者かが置いていったのだろうか。
不思議に思いながら手の中の柘榴を見つめていると、不意に柘榴の匂いが強くなったような気がした。
甘く強い芳香に、脳内が痺れていくような感覚を覚える。
御堂は強く甘い香りに誘われるまま、柘榴を割って粒に歯を立てた。
「…ぅさん……」
近くで声が聞こえたような気がした。
目を開けようとするも、瞼が重くて仕方がない。すると、声は笑い声に変わった。
「……仕方ないな」
(誰…だ……?)
間近に人の気配がすることに気がついた御堂は、さすがに目を開けた。
その瞬間、首筋に熱く、ざらりとしたものが這う。
「んっ……!」
「お目覚めですか、御堂部長」
目の前でニッと笑うその人物は、あの佐伯克哉だった。
「ノックしても返事がないからどうされたのかと思ったら……居眠りをしていたなんて」
「居眠り……?」
御堂は小さく呟いた。
就業中に居眠りなど、普段の自分では考えられない失態である。
だが、あの柘榴を食べたあとの記憶はふっつりと切れてしまっていた。
頭も靄がかかったようにぼぅっとしている。
「……っ!」
そのぼんやりとした御堂の意識が、俄かに現実へ引き戻された。
克哉の指が、ベルトを外しにかかったのだ。
「貴様っ、何を……!?」
「居眠りをした罰ですよ」
「なっ……!?」
確かに、非は居眠りをした自分にある。
だが、こんなところでこんなことをされる筋合いはない。第一……。
「よせっ!人が入ってきたら……っ」
「そうしたら、大スキャンダルですねぇ」
慌てる御堂とは対照的に、落ち着き払った克哉はさらりと言ってのけた。
自分を見下ろす克哉と目が合う。
レンズの奥の瞳が獲物を狙うような、獰猛な光を放っていた。
そうしている間にも、ベルトが外され、前が寛げられる。
「やめろ……っ」
御堂は克哉を引き剥がそうともがくが、何故か体が思うように動かない。
そう、最初の接待のときのように……。
「あまり抵抗しないんですね。…もしかして、本当は期待しているんじゃないですか?」
嘲るように、克哉は御堂の耳元で低く囁いた。
下で蠢いていた手が、今度はスーツやベストのボタンを外し、ネクタイを解く。
「馬鹿っ、そんなわけないだろう!」
御堂の頬が怒りと羞恥で朱に染まる。
その間に、克哉は手際よくYシャツのボタンを外した。
昼間のオフィスで、白い素肌が露になる。
克哉は肌蹴たシャツの間からのぞく乳首を口に含み、舌先でつつくように刺激した。
「…ふ…ぁ……」
御堂の唇から甘い吐息が洩れた。……その時。
「失礼します」
2回のノックの後、扉が開いた。御堂の体が硬直する。
「…………!?」
入ってきたのは本多だった。入った瞬間、その場で立ち止まる。
目の前の光景を見て、さすがに本多も驚きの色を隠せないようだった。
目を見開いたまま、二人をじっと見る。
「本多、早く閉めろ」
だが、克哉は御堂への愛撫を続けたまま、平然と言い放った。
「あ、あぁ……」
本多は素直に克哉の言葉に従って、開いたままの扉を閉めた。
しかし、イマイチ状況が飲み込めないといった風に、
「克哉…それに、御堂部長…何をして……」
と、克哉に問いかけた。そんな本多に克哉は口角をにやりと歪めて答える。
「見た通りのことだ。お前も一緒にやるか?」
「なっ……!?」
信じられないような克哉の言葉に、御堂の目が驚きで無防備に見開かれた。
「貴様、何を言って……!君もそんなところにいないで早く……っ!!」
こいつをどうにかしろ、と言う前に、克哉の指が御堂の下着に侵入し、御堂自身の先端を擦る。
突然の強い快感に、御堂は身を捩じらせた。
目を固く閉じ、頬を赤く染めた御堂の顔は、相当な色気を帯びていた。
その表情を見た本多は、ごくりと唾を飲む。
――がちゃり。
オフィスの内鍵がかけられる音が、無情にオフィスへ響いた。
「は…ぁ……っっ!」
どのくらい経ったのだろうか。
あれから御堂は、何度も二人に犯され続けていた。
気がつけば、肌蹴たYシャツ以外、身を包むものは一切ない。
「くくっ。あんなにイったのに、またあそこを勃たせて。
本当にあなたは淫乱ですねぇ……」
椅子に座って御堂を貫いている克哉が、酷薄な笑みを浮かべて言った。
二人分の体重を支える椅子が、ぎしぎしと軋む。
「…違う……私は、……ぁあっ!」
「違わないさ。なぁ、本多?」
後ろを責め続けながら、克哉が本多に同意を求めた。
「…あぁ、そうだな」
本多は御堂の乳首から唇を離し、濡れた声でそう答えた。
「御堂さん、いい加減に認めたらどうです?……浅ましい自分を」
「いや…だ…っ、誰が……!!」
搾り出すような声で、御堂は精一杯否定する。
しかし次の瞬間、本多の手が御堂のペニスを激しく扱き立て、御堂の体が大きく跳ねた。
「あぁっ…く、…はぁ……!」
「本多、まだイかせるなよ?」
性急な本多の行動をたしなめるように、克哉が言った。本多が不満そうに呟く。
「…お前ばっか、ずるいぞ」
「さっき十分楽しんだろ」
「まぁ…そうだけど……」
本多は軽くため息をついて、御堂のペニスを握ったまま御堂の胸を一舐めした。
たったそれだけの刺激でも、御堂は小さく体を震わせる。
「こんな色っぽい御堂さん見てるとだなぁ……」
本多はそこで言葉を切った。
我慢できない、と言いたげな本多を見て、克哉は喉の奥で笑った。
「わかった。じゃあそろそろ交代してやる」
言い終えると同時に、克哉は御堂が一番感じるポイントを強く突き上げた。
克哉の動きと合わせるように、本多も御堂自身を扱き上げた。
「ぁ、ぁあ……っん、……ぁああっっ!!!」
激しすぎる快感が一気に走り、御堂の体ががくがくと震えた。
すでに透明に近くなった液が飛び、本多の手を汚す。
「あ…はぁ、…は………」
枯れた喘ぎ声を洩らしながら、御堂は意識を手放した。
コンコンッ。
「…………っ!!」
ノックの音が耳に届いた御堂は、飛び起きるように起きた。
咄嗟に自分の身なりを確認する。
しかし、予想に反して着衣はまったく乱れていなかった。
(――夢、だったのか?)
夢にしては生々しかったが、と思いつつ、
御堂は扉の向こうにいる人物にオフィスへ入るように言った。
扉の開く気配とともに、御堂は立ち上がろうとした。
……ところが。
(…な……!?)
股間からぬるりとした液体が太腿へ伝いそうになり、また、腰に重い鈍痛が走って、
御堂は思わず腰を椅子へ沈めた。がちゃりと扉の開く音が、御堂の耳へ届く。
「失礼します」
扉の向こうから、長身の男が入ってきた。
それは、今御堂が最も会いたくない人物―佐伯克哉―だった。
「御堂さん、こちらの書類についてなのですが、……どうしたんですか?御堂さん」
御堂の様子が普段とは違うことに気付いた克哉が、怪訝そうな顔をして近づいてくる。
「くっ……」
御堂は顔を顰めた。頼むから、それ以上近づいてこないでほしい。
そう思ったものの、それを言葉にすれば怪しまれてしまう。
なすすべなく、無言のまま御堂は俯いていた。
「ふっ、なるほど…そういうわけですか」
椅子に座った御堂の隣まできたとき、ついに異変に気がつかれてしまった。
嘲るような笑みを浮かべられる。
「寄るな……」
呟くように御堂が言った。
「どうしてここがこんなになってるんですか?まさか、一人でシてた、とか?」
膨らんだ御堂のそこを、克哉は指でつつ、となぞった。
「違う!…これは……」
咄嗟に否定した御堂は、あの柘榴のことを思い出した。
(確か、柘榴を食べて…それで自分は眠ってしまって……)
しかし、そこまで思い出したものの、そんなことを克哉に言っても恐らく信じてもらえないだろう。
「まぁ、理由は何であれ、このままじゃ辛いでしょう。俺が、楽にしてあげます」
克哉は笑顔を浮かべ、黙りこくった御堂に手を伸ばした。
「くそ……っ…、…ぅあ……っ!」
御堂は大した抵抗も出来ないまま、克哉に覆い被さられていった。
その御堂のデスクの下には、食べかけの柘榴の実が怪しい光を放ちながら転がっていた。