「はぁ……」
週末の夜、広い部屋の中で克哉はひとりため息をついた。
しんと静まりかえったリビングに、自分の足音だけが聞こえる。
部屋をきょろきょろと見回しながら、克哉はあるものを探していた。
「あった!」
ソファの下に落ちていた定期を拾いあげ、克哉はソファに腰かけた。
御堂が出張に行く前日に泊まった際、何かの拍子に落としてしまったらしい。
とりあえず定期をポケットにしまうと、再び克哉はリビングを見渡した。
御堂のいないリビングは広すぎて、寂しさが増す。
(情けないな……)
明日になれば御堂は帰ってくる。
それなのに、たった2日会えないだけでこんなにも御堂に焦がれる自分が恥ずかしい。
気持ちを切り替えようと、克哉は勢いよく立ち上がった。
その克哉の動きで、部屋の空気が揺らぎ、残っていたフレグランスの香りが仄かに香った。
その香りは、ジムで御堂とスカッシュを興じていたときに舞った記憶の中の香りと重なる。
「あ……」
そのあと、御堂とした行為までが頭の中に甦り、身体の熱が上がった。
そのとき触れられたところがじわりと疼く。
(な、何思い出してるんだ、オレ……)
慌てて蘇る記憶を打ち消そうとしたが、火照りだした身体の熱はそう簡単には下がりそうもない。
追い討ちをかけるかのように、自身のソコが頭をもたげ始めてもいた。
この状態では外に出ることも叶わない。克哉は仕方なくベルトの金具に手をかけた。
下着に手を入れ、半立ちの肉棒を握る。
「んっ……」
そのまま外へ出し、緩く扱いた。それだけの刺激でもぴくりと身が震える。
克哉は瞳を閉じて、御堂にされたことを思い出していた。
記憶の行為を辿るように、空いている方の克哉の手はそろそろとシャツの中へ入っていく。
芯を持ち始めた乳首を優しく抓みながら下を扱くと、甘美な快感がじわりじわりと沸き上がってくる。
「ぁ…、ふ……っ」
微かな吐息と卑隈な水音が、混ざりあって部屋へこぼれていく。
高ぶったものをただ処理するための行為は、快感を追い求めるものになっていた。
「はぁ……御堂、さん……っ」
熱に浮かされるまま、克哉は手の動きを早めていく。
手の中で性器のひくつく回数が増え、今にも達してしまいそうになる。
―ピッ。
「……っ!?」
玄関から解錠される音が、克哉の耳に届いた。
その音に、克哉は一気に現実へと引き戻される。
(え、何で!?)
急いで着衣を整えたが、すでに猛りきったソコは隠しきれていない。
(ど、どうしよ……!)
その間にも、御堂の足音がリビングへ近付いてくる。
「来ていたのか」
会いたくて堪らなかった相手に会えたのに、この状況では複雑な気持ちだ。
「あ…御堂さん……、おかえりなさい……」
ぎこちない克哉の様子に、御堂は怪訝そうに眉を顰めた。
手にしていた荷物を置き、ソファに座ったままでいる克哉に近寄る。
(このままじゃ……)
御堂に気付かれてしまう。だが、逃げようにも逃げられず、
克哉は股間を見られないように体を御堂から背けることしかできない。
「成程、そういうことか」
克哉の隣に座った御堂は、克哉の肩に手を回し、自分の元へ引き寄せた。
「ぅわっ!?」
太股をそろりと撫でられ、熱を持ったままのソコを優しく握られる。その刺激に、克哉の体が小さく跳ねた。
「克哉、何故ここをこんなにしているんだ?」
耳元で低く囁かれた。やんわりと揉みしだかれ、克哉の口から甘い吐息がこぼれる。
「ふ…、…ぁ……っ」
目を閉じて、快感に堪える。ジムであなたにされたことを思い出しながら自慰していました、
なんて、恥ずかしすぎて口が裂けても言えない。
「自分でここを弄っていたのか?」
意地の悪い色を帯びた御堂の声が聴覚を犯していく。
穿いていたジーンズのボタンを外され、下着の上から膨らみをゆっくりとなぞられた。
「やっ……!」
弱々しく身を捩る。御堂の手が離れ、右手首を掴まれた。
そのまま自分の下着の中へ誘われる。
指先が自身の強張りに触れ、思わず手を引っ込めようとしたが、それは手を掴む御堂の手が許さない。
そのまま自身を握らされた。重ねられた御堂の手がゆっくりと上下に動き始める。
「どうなんだ?」
低い声で返答を促されながら、耳朶を甘噛みされた。
微かな痛みがじわりと沸く。それと同時に自身を扱く動きが早められた。
「………っ」
たまらず克哉は首を縦に振った。
「そうか……では」
御堂が満足そうにくすりと笑う。
「どんな風にしていたのか、私に見せてみろ」
「えっ……」
御堂の言葉に驚いて、克哉は御堂の顔を見た。口角を上げた御堂と目が合う。
(あ……)
熱を帯びた視線に、理性が絡めとられる。
その視線に促されるように、自身を握る克哉の手が、己の意志でゆるゆると扱き始めた。
それまで手を掴んでいた御堂の手が離れる。
「ん…ぁ……」
唇から吐息にも似た喘ぎが漏れた。性器の先端から透明な液体がとろとろと湧き、克哉の手を濡らしていく。
「気持ち良さそうだな。そんなに濡らして…」
御堂の指が克哉の亀頭を撫でた。
「あぁっ……!」
敏感な部分に与えられた刺激で、克哉自身がひくつく。
「どんなことを考えながら、していたんだ?」
克哉の痴態をじっと見つめたまま、御堂が克哉に問い掛けた。
「御堂さんに……」
「私に?」
「その…、ジムでされたことを…思い出し、て……」
どうしようもなく恥ずかしくて、言葉の最後が消え入るように小さくなる。
「…………」
御堂は何も言わない。横目でちらりとその横顔を見てみる。
眉を顰めた御堂の頬が、少し赤くなっているような気がする。
不意に御堂が克哉の腕を掴んだ。
「み、御堂さん?…わわっ!」
そのまま立ち上がりながら引っ張られて、体のバランスが崩れそうになる。
そんな克哉に構わず御堂は歩き始めた。太もも辺りに下がったジーンズがずり落ちて、足が縺れそうになる。
寝室に入るや否や、克哉は御堂にベッドへ押し倒された。性急に衣服を脱がされ、そのまま激しく抱かれた。
「んっ…ふぅ……っ」
挿入されながら唇を重ねられ、熱い舌を絡め捕られる。
「ふぁ…、御堂さ、ぁあっ!」
全てが収まると、その熱い塊で内壁を擦られた。
強い快感が走って、思わず克哉は御堂の背へ爪を立てた。
シャツの生地を隔てているとはいえ、食い込んだ爪は御堂に痛みを与えたはずだ。
「す、すみませ……」
「謝らなくていい」
申し訳なさそうな顔をする克哉に、御堂は微笑を見せた。
その間も御堂は克哉の中をゆっくりと刺激している。
「うぁ……っっ!」
一番感じるポイントを突かれ、克哉の背が仰け反った。
背中に回す手に力が篭る。繰り返しそこを責められ、一気に絶頂へと登り詰めていく。
「み、御堂さんっ、もう…っ!」
快楽を与え続ける主へ、克哉は懇願ような視線を投げ掛けた。
濡れた瞳と上気した顔が、ぞくっとするほどの色気を放つ。
その蠱惑的な表情を見て、御堂の目に獰猛な肉食動物のような光が宿った。
「克哉……」
艶めいた声で克哉の名を呟くと、彼自身の先端で克哉の最も敏感なソコを強く抉った。
「あぁあーっっ!!」
激しい快感が電流のように、一気に全身へと駆け巡り、克哉は張り詰めた自身から精液を迸らせた。
「御堂さん…どうして連絡くれなかったんですか…?帰りが早くなるならそう言ってくれればよかったのに……」
情事後特有のだるさを感じながら、克哉はばつが悪そうに御堂に言った。
「連絡なら、帰る30分前には君の携帯に電話したぞ?」
「えっ……」
御堂が帰る30分前…そのとき、自分は御堂の部屋にいて…。
「あっ…」
そのとき自分の取っていた行動を鮮明に思い出してしまい、羞恥で頬が赤く染まる。
「何度掛けても出ないからどうしたのかと思えば…まさか私の部屋にいて自慰をしていたとはな」
御堂が意地悪い笑顔を浮かべて克哉を見た。
「うぅ……」
何も言えなくて、克哉は背中を丸めた。
情けなくて、恥ずかしくて、穴があったら入りたいというのは正にこんな状態だ。
そんな克哉の様子を眺めていた御堂は、不意に肩へ手を回して自分の側へ克哉を引き寄せた。
「御堂さん…?」
「…今度、また一緒に出張へ行けないときが来たら、私に電話を掛けろ。電話で君の相手をしてやる」
「え…?」
今一つ御堂の意図が読み取れない克哉に、御堂は耳元で低く甘く囁いた。
「テレフォンセックスをしてやる、と言っているんだ」
「なっ……!?」
あまりにも明け透けな単語に、かぁっと顔が熱くなった。
そんな、顔を真っ赤にして口をパクパクさせている克哉を、御堂は楽しげに見つめていたのだった。