クリスマスも過ぎ、街は新年に向けた準備を着々と進ませていた。
電飾で彩られたツリーが置いてあった場所には門松が置かれ、
カップルたちが手をつないで歩いていた道には買い物袋を手にした人々がせわしげに歩いている。
(あさっては大晦日か…そういえば)
歩きなれた道を歩みながら、御堂はふと重要なことを思い出した。
大晦日である31日は、御堂にとって特別な日でもあった。
最愛の人である、佐伯克哉が生まれた日だ。
もちろん、忘れていたわけではない。プレゼントも用意してある。
だが、まだどのように祝おうか良いアイディアが思いついていなかった。
(あいつのことだ…最終的にはあの日のようにベッドで私を…)
二人で過ごしたイブの日を思い出してしまい、顔が熱くなる。
丁度祝日だった今年のイブは、佐伯の部屋で一日を過ごした。
だが、その一日の大半は寝室で過ごしたといっても過言ではないくらい、佐伯と何度も肌を重ねた。
おかげで、次の日は一日中身体が重かった。
(たまには、あいつの驚く顔を見てみたいものだが…)
思い返せば、自分の誕生日のときも結局佐伯にいいように抱かれた。
だからこそ、佐伯の誕生日ではあるが、何となく佐伯の思い通りにはさせたくなかった。じゃあ、どうするか。
(………)
浮かんだことは浮かんだ。だが、実行しようと思うと二の足を踏みそうな案だった。
でも、佐伯の驚く顔は見てみたい。御堂は決心した。
(見ていろ、佐伯…!)
握る手に力を込めて、御堂は心の中でそう叫んだ。
「美味かった」
店を出た佐伯は、満足げに微笑んだ。
「当然だ。私が知っている中で一番美味い店なんだからな」
御堂も自慢げに笑顔を浮かべる。
「で、このあとはどこへ連れて行ってくれるんだ?御堂さん」
嬉しそうなその顔は、どことなく子供っぽく見える。
仕事を完璧にこなす普段の佐伯とは違うその無邪気な表情に、
そういえばこいつは自分より七歳年下だったんだな、と妙なところで納得してしまう。
「ここだ」
店からそう長くは歩かずに御堂は足を止めた。目の前には、有名な高級ホテルが門を構えている。
手際よくチェックインを済ませ、二人は部屋へ入った。
高級ホテルらしく、部屋の内装や調度品も凝ってはいるが上品だ。
御堂は鞄の中から綺麗に包装された箱を取り出すと、克哉に手渡した。
「開けていいか?」
「あぁ」
リボンを解き、箱を開ける。箱の中身はライトブルーのネクタイとタイピンだ。
佐伯は臙脂色のネクタイを好んでつけているが、こういう色も似合うだろうと思って選んだ。
「気に入ってくれたか?」
「あぁ。ありがとう」
佐伯は大切そうに箱をテーブルに置くと、御堂の腰に手を伸ばした。
「なぁ御堂。まだ貰い損ねているものがあるんだが」
レンズの奥にある瞳に、欲望の光が宿っている。だが、ここでこのまま抱かれてはいつもの通りだ。
「分かっている」
御堂はにやりと笑うと、その場に跪いて、克哉のベルトの金具に手をかけた。
突然の御堂の積極的な行動に佐伯もさすがに驚きを隠せないようだ。
「今日は、私がお前を楽しませてやる」
無言で御堂を見下ろしている佐伯に、挑発的な言葉をかけてみる。
すると、佐伯もいつも通りの不敵な笑みを浮かべて言った。
「そうか。じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおう」
ベッドに腰掛けた佐伯の足の間に入り、まだ柔らかい肉棒を取り出して口に含んだ。
「ん…っ…ぅ…」
舌で舐める音が部屋に洩れ、淫蕩な空気を作り出していく。物理的に与えられる刺激と、
眉根を寄せて口淫を行う御堂の耽美な姿によって克哉のモノも熱を持ち始める。
先端からこぼれ出る苦い液体を掬い上げるようにして舐め取れば、佐伯の身体が微かに震えた。
「……っ‥」
佐伯の荒い息遣いが、御堂の行為をさらに激しいものにさせる。
すっかり立ち上がった佐伯自身を御堂は愛おしそうに舌で愛撫した。
肉棒のひくつく回数が増え、解放が近いことを告げる。御堂は射精を促すように強く吸い上げた。
「く……っ!!」
口の中のモノがひときわ大きく脈打ち、欲を放出した。
喉奥へ注がれた液を嚥下していく。
しかし、量が多かったのか飲み下しきれなかった白濁が唇からこぼれ、顎を伝った。
それを手で拭って舐め取りながら佐伯の顔を見上げれば、一度萎えたはずの肉棒が再び頭をもたげ始めた。
「これだけで終わりか?」
台詞とはうらはらの余裕のない声音に、御堂は淫蕩な微笑を浮かべてこたえた。
「いや、これからが本番だ」
そう言うと御堂は佐伯にベッドへ上がって仰向けになるように告げた。
佐伯は御堂に言われたとおり、素直に仰向けに寝転がった。
御堂は佐伯の足の間に入ると、自分の指を口に含んで湿らした。
唾液でぬらぬらと光る指を見たとき、佐伯の頭にある懸念が浮かんだ。
まさか、俺を抱く気じゃないだろうな、と。
だが、それはただの杞憂に終わった。
御堂はためらいながらもそろそろと自身の後孔に手を伸ばした。
「…んんっ……‥」
御堂の腰が怪しくくねる。自分の指による圧迫感に耐えつつ、
御堂は目の前に半ば立ち上がっていた佐伯自身に舌を這わせた。
自らを解しながら奉仕をする御堂に、さすがの佐伯も意表を突かれた。
普段の御堂ならプライドが邪魔をしてこんな行為は絶対にしないであろう。
「ぅ…ふ、‥ぁ……」
紫闇の瞳をしっとりと濡らしながらそそり立った男根を口に含んだ姿は、佐伯の目にひどく扇情的に映った。
再び吐精感が湧き上がり始めたとき、御堂はそれを察知して唇を離した。
先走りと唾液が混じった透明な糸が室内の灯りを受けてきらきらと光り、そして切れた。
御堂は後孔に入れていた自らの指を抜くと、佐伯の上にまたがって天井を向いた佐伯自身へ腰を落とし始めた。
埋め込んでいくにつれて御堂の表情が苦痛にゆがむ。
「御堂…無理はするなよ…?」
苦しそうな様子に、佐伯も心配そうに御堂を見つめる。
「平気だ……、…んっ…」
強がっては見たものの、指とは比べ物にならない圧迫感と苦痛に呻き声が上がってしまう。
何度も肌を重ねてはいるが、挿入の際の苦痛はいつまでたっても慣れそうにない。
それでも普段は佐伯に充分に中を解してもらっていたのでまだマシであった。
だが、今回は解したりなかったのか、身が引き裂かれるのではないかと思うくらい痛みが激しい。
それでもどうにか肉棒を全て収め、ゆっくりと腰を動かし始めた。
痛みに耐えながら、自身のもっとも敏感なところを探る。
動いているうちに解れてきたのか、挿入時に比べて幾分動きが楽になってきた。
「ぁ…は……っ…んんっ!!」
唇からこぼれる呻吟が、上擦った甘い声に変わった。
探り当てたポイントを先端で擦るたびに快感が身体中へ駆け巡る。
刺激で中が収縮し、その内壁の反応に佐伯の表情からゆとりが消える。
「くっ…御堂、そんなに締め付けるな…っ」
そう言いながら佐伯は下から御堂を突き上げた。
身体に走る快感がさらに激しいものとなり、御堂の理性を溶かしていく。
「ぅああ…っ……」
部屋へ響く嬌声が、佐伯の耳に心地よく響く。
白く滑らかな肌はほんのりと淡いピンクに染まり、切なげに見つめる紫闇の瞳が佐伯の熱をあおる。
「佐伯っ‥ぁあ……っ」
懇願するような声音で御堂が名を呼ぶ。
「イきそうか?」
獰猛な笑みを浮かべて佐伯が意地悪く尋ねる。
それまで激しかった動きを緩慢なものに変え、御堂を焦らした。
イきたくてもイけないじれったさに、御堂は身を捩じらせて急かすように佐伯を見る。
「んぅ…っ、はや‥く…っ!」
「早く、何だ?」
意地の悪い佐伯の態度が憎らしい。
だが、燃え上がり火照った身体は絶頂を欲して疼いていた。
「は…やく…イかせ…っ」
蚊の鳴くような声で懇願を口にすると、佐伯は満足げににやりと笑った。
再び激しく突き上げられ、絶頂へと駆け上っていく。
「ッッーー……!!」
声にならない声を上げながら、御堂は欲を放った。
「結局、あいつの好きにされてしまったな…」
シャワーを浴びながら、御堂は小さく呟いた。
情事後のけだるい身体にシャワーの湯が心地よくあたる。
そのとき、浴室の扉ががちゃりと開いた。
「佐伯…?」
開いた扉の前には一糸纏わぬ姿の佐伯が立っていた。いつもかけている眼鏡もない。
浴室の中へ入ってきた佐伯の不敵な笑みを目にして、御堂は何となく不穏なものを感じた。
「何の用だ、…っ!」
急に間合いを詰められ、壁際へと追い詰められる。
その拍子で取り落としたシャワーヘッドの湯が御堂と佐伯の足に当たる。
「まだ足りない」
「は?何を言って…」
首筋に顔を寄せられ噛み付くように吸われる。甘美な痛みが走り、再び身体の熱が上がった。
「せっかくの誕生日なんだ。もう少し楽しませろ」
耳朶を舌で舐られながら佐伯の低く欲情した声が鼓膜を震わせる。
浴室に御堂の艶めいた声が響くのに、そう時間はかからなかった。