Love doll

 

金曜日、久々に早めに帰宅できた私は、リビングで音楽を聴きながらワインを飲んで寛いでいた。

今週は、あの佐伯ともほとんど顔を合わせずに過ごすことができた。

…できることなら今後二度とあの顔を見たくはないが、

プロジェクトで関わる以上、そんなささやかな望みは叶いそうもない。

プロジェクトから佐伯を外す、という手段も残されていないわけではないが、

そんなことをしたらあいつが何をしでかすか分からない。



――俺を外して困るのは俺ではありません。あなたの方です。

「……っ!」

会議室で味わされた恥辱が脳裏をよぎる。握り締めた手に力が籠り、掌に爪が食い込んだ。

(…思い出すな。今は忘れよう)

何も今このときに、あんな屈辱を思い出すことはない。

せめて今だけは、何も考えずにゆったりと過ごしていたかった。



だが、そんな穏やかな時を打ち壊すように、玄関から扉の開く音がした。

「こんばんは、御堂さん」

ずかずかと部屋へ侵入してきた佐伯は、にやりと笑いながら私の顔を見た。

「…出ていけ」

焦りと怯えを覆い隠すように、私は佐伯に低い声で告げた。

それでも、遠からず訪れるだろう悪夢を想像してしまい、

それに呼応するように不快な汗が背中をじっとりと濡らした。

「冷たいですねぇ。せっかく遊びに来たのに」

薄ら笑いを浮かべたまま寄ってくる佐伯の様子に、本能が逃げろ、と警鐘を鳴らす。

私は反射的に立ち上がって、玄関へと駆け出そうとした。

だが、佐伯に腕を掴まれ、力任せに胸元へ引き寄せられた。

「放せ!」

叫んでみるものの、口元を笑みの形に歪めたまま佐伯は、私の耳元へ唇を寄せて呟いた。

「ねぇ御堂さん、今から俺と、楽しいことをしましょうよ」

そのまま強引に床へ押し倒された。圧し掛かってくる佐伯を押し退けようともがく。

そんな私を、佐伯はポケットから取り出した手錠で手首を戒め、床へ押さえ付けた。

そして、空いている右手でベルトを外し、下着の上から性器をやんわりと揉んだ。

「やめ…ろ、触るな!」

必死に身を捩って佐伯の手から逃れようとする。

しかし、的確に性感を煽る佐伯の手付きに、体は勝手に熱を持ち始めた。

「ちょっと触っただけなのに、もう固くなってますよ?本当にあなたは淫乱ですねぇ…」

「うるさい…っ」

嫌で仕方がないのに、浅ましく反応してしまう自分の体が憎い。

「……んん…!」

佐伯の手が、下着の中へ侵入してきた。直接性器を触れられて、思わず声が漏れてしまう。

「うぁっ……」

一瞬の隙を突かれて、下着と共にズボンを下ろされた。露出した性器を、佐伯の手に握られて扱かれる。

「やめっ…ぅ、……っっ!」

強い快感が沸き上がって、私はあっけなく果ててしまった。

「はぁ、…ふ……」

「随分早かったですね」

乱れた呼吸を整えようとする私の口元へ、佐伯は精液で汚れた指を突き付けた。

目を逸らせる私に、佐伯は冷たく命令をする。

「御堂さん、舐めて綺麗にしてくださいよ。あなたが汚したんですから」

そのまま無理矢理口内へ指を突っ込まれる。

首を振って抵抗を試みようとするものの、佐伯は押さえていた手首を離して、

代わりに私の前髪を掴んで動きを封じた。

「ん、ぐぅ……!」

舌で指を押し返そうとすれば、苦味と生臭さがさらに口に広がる。息苦しさで目に涙が滲んだ。

しばらく指で口内を犯され続け、吐き気が込み上げてきたところでやっと指が抜かれた。

佐伯は唾液でべとべとになった指を私のシャツで拭うと、

側に置いていた鞄を引き寄せ、中から紐のようなものを取り出した。

「よせ……!」

萎えかけていた私自身に触れられて、何をされるのか悟った私は叫ぶように言った。

だが、私の制止などには耳も貸さず、佐伯は手にした紐で根元を縛った。

「今度はそう簡単にはイかせませんよ?」

そう告げるとまた佐伯は鞄を漁った。

今度は何だ、と睨む私の目に、輪ゴムと妙なものを手にした佐伯の手が映った。

「…何だ、それは…」

それは見たこともないものだった。バイブでもなければ、ローターでもない形状をしている。

「これですか?こうやって使うんですよ」

佐伯は口角を釣り上げて、その妙な物体を亀頭に被せ、輪ゴムで固定した。

ぱちん、と軽くスイッチが弾かれると同時に、それは振動を始める。

「うぁあーっ、くぅ!!」

あまりの快感に、私は身をのたうち回してしまう。

「嫌、だ、外せっ、…ぁあっ!」

佐伯はさも愉快そうに私の痴体を見下ろしていたが、

私が身を捩らせてその玩具を外そうとすると、覆い被さって私の体を押さえ付けた。

「駄目ですよ、外そうとしちゃ」

意地の悪い笑みを浮かべて、佐伯は私のシャツのボタンを外し始めた。

胸元をはだけさせると、佐伯は私の上に跨がったままテーブルへ腕を伸ばした。

飲みかけのワインが入ったグラスを手に取り、私の胸元へ容赦なくワインを浴びせる。

室温で温んだとはいってもまだ冷たい赤色の液体が、私の胸を赤く染めていく。

グラスの中の液体を全てかけ終えると、佐伯は赤く染まった私の胸に舌を這わせた。

ぴちゃぴちゃとワインを舐め取る佐伯の姿に、まるで獣に貪り喰われているような錯覚を覚える。

「ぁ、はっ……」

佐伯の舌が乳首を撫ぜた。固くしこったそれを唇で挟まれ、執拗に舌で転がされる。

「ふぁ……、ゃ…あっ!」

溢れ出る喘ぎを噛み殺そうとするも叶わず、みっともなく声を上げてしまう。

「そんなに感じるんですか、ここが」

「ちがっ…、ひっ」

佐伯の言葉を否定しようとした瞬間、突起に歯を立てられた。

痛みとそれ以上の快感で、腰が大きく跳ねてしまう。

「も、いや…だっ……ぁあ!!」

私の理性を根こそぎ奪おうと、亀頭に与えられ続けている刺激と乳首への愛撫が

強烈なまでの快楽となって襲いかかる。

「…イきたいですか?御堂さん」

「………っ」

獰猛な響きを帯びた佐伯の声が、鼓膜を震わせた。

熱い舌が耳朶をねぶり、耳の穴へと差し込んで卑猥な水音を立てる。

「イきたいんだろう?懇願してみろよ」

「嫌…だ…。誰が、貴様なんかにっ」



こんな下劣な奴に屈したくはない。

その一心で、私は会議室で辱しめられたときと同じように拒絶の言葉を吐いた。

「くくっ、本当にあんたは強情だなぁ。それなら…」

佐伯は私から離れると、鞄からまた何かを取り出して戻ってきた。

ネジを巻くような耳障りな音が聞こえ、後孔にぬるぬるした液体がかけられる。

続いて、佐伯の指が体内へと侵入してきた。

「く、ぁ……」

ローションのぬめりが手伝って、それほど圧迫感はなかった。

だが、違和感がすでに与えられている快感と合わさって、私の身体を異常な興奮状態へと陥らせていく。

「そんなに締め付けないでくださいよ…、御堂さん?」

みっともなく喘ぐ私を嘲笑しながら、佐伯は中を掻き回す。

「うぁあ……っっ!」

もっとも敏感な部分に指が当たり、その衝撃で身体が大きく仰け反った。

一気に絶頂へと上り詰めそうになるが、それは先程から戒める紐によって阻まれる。

「さてと」

指を引き抜いた佐伯は、快楽で身悶えている私の眼前に何かをぶら下げた。

「それは……」

大小様々な丸い玉が数珠玉の様に連なっている物体が目に映る。

「今からこれを、あんたのその貪欲な体に入れてあげますよ」

にやりと笑って佐伯が言った。

「よせ、やめろ!」

ただでさえ凄まじい快楽を与えられているのに、これ以上また何かをされてはどうにかなってしまう。

「やめろ…か……」

佐伯は玩具を指で弄びながら、にやにやと私を見つめていた。

私も目を逸らさずに、目の前の男に精一杯の憎悪を視線に乗せてぶつける。

「そんなに睨まないでくださいよ。もっと苛めたくなるじゃないですか…」

言いながら、佐伯は私の後孔に玉を押し付け、そして、その連なりを一気に奥へと突っ込んだ。

「く、ぁあっ!」

次々と飲み込まされていく玉が、痛みを伴いながら圧迫感と異物感を私に与えていく。

全てを収めると、佐伯は私の腰を抱え上げ、取り出した手鏡で後孔を映した。

鏡に写し出された、みっともなく立ち上がった自身と、玩具を飲み込んだ窄まりを見せ付けられてしまう。

「くっ……」

あまりにも屈辱的な光景に、私は現実から逃避するようにきつく目を閉じた。

滲んでいた涙が、頬を伝って流れる。視界を閉ざした私の耳に、佐伯の欲情した声が届いた。

「ほら、ちゃんと見ろよ。あんたのここから玩具が排泄されるのをなぁ」

「嫌だっ、い、や…っぁあ!」

悲鳴のような声を上げる私から、佐伯は容赦なく玩具を引き抜いた。

擬似的な排泄感がそこから湧き、気持ち悪さと共に、――信じられないことに、快感が走った。

「嘘をつくな。気持ちいいんだろ?あんたのここ、抜く度に固くなっているじゃないか」

ずるずると玩具を引き抜きながら、佐伯は張りつめた私自身を指でなぞった。

その僅かな刺激でさえ、今の私には苦痛にも似た快楽に変わる。

「くそっ、もう、やめ……っ!!」

絞り出すように怒鳴った瞬間、内部に入れられた最後の玉が抜かれた。

「うぁぁっ!!」

その衝撃で、身体が大きく跳ね、意識が飛びかける。

だが、そのまま意識を飛ばしてしまったほうが楽なのに、

ぎりぎりのところで意識が現実へ繋ぎ止められる。

意識を飛ばしかけたことに気付いたのか、佐伯は弱々しく震える私から、

さっきからずっと亀頭を責め苛んでいた道具を外した。

だが、ほっと息をつく暇なく、佐伯は昂った佐伯自身を宛がった。

「さて、そろそろ俺も楽しませてもらいますよ」

「…ぐ、…ぁ……っ!!」

やめろ、と叫ぶ間も与えられずに、猛りきった熱い塊を突き入れられた。

一気に奥まで侵入した佐伯自身が、掻き回すように裡を蹂躙していく。

「ぅ…あ……、くっ…ぅ…」

快楽に翻弄されながらも、この男には絶対に屈したくなくて、

禍々しい笑顔を浮かべる男を射殺すように睨んだ。

「この状態でまだそんな顔ができるんだな…。それなら…っ」

そう言うと佐伯は、中を乱暴に掻き回し、私の最も敏感な部分を先端で抉った。

「ひぁあ……っ!」

電流のような快感が走り、悲鳴にも似た声が上がってしまう。

ローションと肉棒が立てる淫猥な音に、聴覚まで犯されていった。
 





「ぁ…う…っ、んんっ……」

どのくらい経過しただろうか。

緩急をつけた抽送を繰り返される中で、私はもう声にならない叫びを上げることしかできなくなっていた。

貫かれ、揺さぶられる身体は、まるで自慰用の人形のようにがくがくと揺れる。
 


もう、限界だった。


私の意識は、昏い闇の中へと飲み込まれていった。

完全に暗転する刹那、佐伯の舌打ちの音が聞こえたような気がした。