seizure…

 

日も暮れ果てた日曜日。広いエントランスを疲れた足取りで御堂は歩いていた。

過労で倒れた後も、御堂はこうして休日出勤をしていた。

倒れた日、少し休んだお陰で体力は回復した。だが、精神的には酷く疲れを感じている。

相変わらずミスはしてしまうし、何をやってもうまくいかない。

社内では、上からも下からも冷たい視線が御堂へ突き刺さり、それがさらに御堂を精神的に追い詰めていた。

(くそっ……!)

それもこれも、全てはあの佐伯克哉という男のせいだ。

あの男が自分の前に現れなければ、こんな目に遭わなくて済んだはずだ。

 


エレベーターを降りた御堂は、苛立たしげに部屋のカードキーを取り出し、差し込んだ。

(………っ!?)

解錠された音の代わりに、施錠される音が御堂の耳へ届いた。

朝は確かにしっかりと鍵をかけたはずだ。とすると、鍵が開いていた理由は……。

(まさか…、あいつが……)

背中に冷たいものが走る。カードキーをポケットにしまい、御堂は逃げるように引き返そうとした。

しかし、解錠の音と共に、開いた扉から伸びた腕に手首を掴まれる。

「お帰りなさい、御堂さん」

にっこりと笑った克哉が、そのまま引きずり込むように御堂を引き寄せた。

「…貴様っ、放せ!」

御堂の後ろで扉が閉まる音と、御堂の怒鳴り声が重なる。

力づくで引っ張られたため、バランスを崩した御堂は克哉の胸の中へ寄りかかる形となった。

「遅かったですね。待ちくたびれましたよ」

克哉が御堂の耳元で囁いた。吐息がかかり、びくりと体が震える。

「……帰れ」

御堂は吐き捨てるように言うと、克哉を突き飛ばして走り出した。

御堂を追いかける克哉の気配が、御堂を追い詰めていく。

リビングに入った瞬間、御堂は足がもつれて床へ倒れた。その御堂に覆い被さるように、克哉はのしかかった。

着ていたスーツなどを剥ぎ取り、御堂のネクタイを解いて、床についた手を後ろ手に縛り上げる。

「止めろっ!」

不自由な体勢でも逃げようともがく御堂を嘲笑うように、克哉は唇を御堂の耳へ近付けた。

耳たぶを甘噛みし、耳殻を舐める。

「んっ…やめっ……!」

卑隈な水音が御堂の鼓膜を震わす。

「御堂さん、今日はあなたのためにいいものを持ってきたんですよ」

克哉はそう言うと、御堂から離れた。近くに置いておいた鞄を引き寄せ、中から何かを取り出す。

「…何だ、それは……」

視界の隅に映ったものに、御堂は眉を顰めた。

克哉が手にしていたのは、湾曲した白い物体だった。

「これですか?オナマグラといって、電動のエネマグラのようなものですよ」

「エネマ……?」

いつどこで聞いたのかは忘れてしまったが、名前だけは聞いたことがある。

ただ、どんな道具なのかまでは知らなかった。

「まぁ、使ってみれば分かりますよ」

克哉はそう言うと、御堂のベルトを外し、ズボンを下ろした。

そして、鞄から小さな容器を取り出して、片手で器用に蓋を外した。

そのまま容器を傾け、御堂の尻の上に中を満たしていた液体を垂らす。

どろりした粘着質のその液体は、ローションのようだった。

べたべたした不快な感覚に、御堂は顔を顰めた。

克哉は薄く笑みを浮かべながら、ローションを絡めた指を御堂のアヌスへ入れた。

「ぅあ……っ」

ぬめるローションの感触に、御堂は身悶えた。

ぬめりが克哉の指を助け、御堂の中を思うがままに蹂躙する。

やがて、ある場所に指が到達し、御堂の体が大きく跳ねた。

「っ…くぅ……っ!」

「ここ、か」

位置を確認するように、克哉は敏感なそこを何度も擦った。

擦られる度に御堂の背中が小さく反る。

「ふっ……ゃ…め……」

頬を赤く染め、恥辱と快楽に歪む顔を克哉はじっと覗き込んだ。

御堂は涙が滲んだ目でそんな克哉を睨む。

「御堂さん、そんな色っぽい顔で睨まないでください」

「っ……」

悔しそうに唇を噛み締める御堂の表情を満足げに見ながら、

克哉は先程手にしていた器具を手に取り、御堂の後孔へ当てがった。

制止の声を上げる間もなく、器具が体内へ挿入される。

「うぁ……っ!」

ローションのぬめりもあって、器具はすんなりと入っていく。

身をよじって抵抗するも、器具は御堂の内壁にがっちりと固定されて抜ける気配はない。

「さて、と」

挿入を済ませた克哉は、鞄からまた何かの道具を取り出した。

それは、黒い革製のバンドのようなものだった。

克哉は御堂を横向きに寝かせると、熱を持った御堂自身にバンドを巻き付けた。

「いつっ……」

「これで締めると、簡単にはイけなくなるんですよ」

楽しそうに笑みを浮かべる克哉に、御堂は剥き出しの憎悪を視線に乗せてぶつける。

「貴様……」

「今日はとことん悦ばせてあげます」

笑みを浮かべたまま言うと、克哉は御堂に背を向けた。

御堂はその隙に挿入された器具を抜こうと試みた。

器具はただ圧迫感を与えたまま、がっちりと固定されている。

御堂は腕を伸ばして抜こうとするものの、後ろ手に縛られた手は器具に届かず空を切る。

器具を抜くのを諦めた御堂は、どうにかして手首を戒めているネクタイを解こうとするが、

しっかりと結ばれたネクタイは一人では解けそうもない。



そうこうしているうちに、克哉が戻ってきた。

克哉は寝室から持ち出してきたらしい羽根布団をリビングに敷くと、御堂をその上に乗せた。

「こうしないと、痛いでしょうから」

笑みの形に目を細めて、克哉が言う。その克哉の言葉に不穏なものを感じた御堂は、身をよじり、叫ぶように言う。

「貴様、これを抜けっ」

だが、克哉はそんな御堂に忠告するように言った。

「そんなに暴れない方がいいですよ?今のうちに体力を温存しないと。…辛いのはあなたですから。」

「何だと……?」

語気を強めたまま呟いた御堂は、ふと尻の辺りから妙な感覚が生まれたのに気付いた。

器具の当たっているところが熱くなる様な、そんな感覚だ。

「んっ…。なん…、だ……?」

その奇妙な感覚は、どんどん強くなっていくような気がする。

御堂の顔色が変わり始めたのを克哉も気が付く。

「そろそろ、か」

克哉は御堂のアヌスから出ている器具の一部まで手を伸ばした。

違和感に耐える御堂の顔を眺めながら、克哉はそこについている2つのスイッチを両方共押した。

「…ぅぁあっ!?」

体内に入っている突起と外部の突起が同時に振動し始めた。

先程まで感じていた違和感がぞっとするような快感に変わって、御堂に襲いかかってくる。

「な、んっ…。ぁあっ、は……っっ!!」

布団の上で快楽に翻弄される御堂を、克哉はさも愉快そうに見つめていた。

「どうです?気に入っていただけましたか、御堂さん」

「ふざけ、るな…っ。早く、これを、外…せ…ぇっ!!」

どうにかそこまで言葉を紡ぐも、次々と寄せてくる快感の波が御堂の理性を奪おうとする。

「くくっ。そんな状態で言われても説得力ないですよ」

克哉は御堂の側にしゃがみ込んで、とろとろと透明な液を流す先端を指で触った。

「や…ぁ……っ!!」

「こんなにして……。革が千切れそうじゃないですか」

人指し指でぐりぐりと押し潰すように刺激される。凄まじいまでの快感に、御堂は抵抗することを忘れた。


その次の瞬間。


「ひっ……ぁああっっ!!」

背中が大きくしなり、絶叫にも似た声が部屋に響いた。

しかし、隠茎を締めるバンドが射精を許さない。

射精していないのに絶頂と同じ快感が走り、御堂は自分の体の反応に混乱した。

「な、なん…で…、っは…っ」

「空イキですよ」

当惑する御堂に、克哉は囁くように言った。

「そういうものなんですよ、その器具は。体力の続く限り、イき続ける……」

「そんなっ…、いや…だ…ぁ!!」

平然と言ってのけた克哉に、御堂はさすがに懇願するような視線を向けた。

こんな地獄の責め苦のような快楽が続くくらいなら、いっそ死んでしまった方がいい。

「抜いてほしいですか?」

克哉が甘く囁く。

「ぅ…ぁ、ふっ……」

――言うな。

最後の理性のひとかけらが、誘惑に駆られそうになる御堂を引き留めた。

「言えよ。そうすれば、楽になるんだぞ?」

「っ……!」

御堂は、打ち寄せる快楽の波に耐えながら、克哉をきっと睨んだ。

「嫌だ…っ!誰が、貴様なんかにっ!」

絞り出すように怒鳴りつけた。

「何だと?」

「貴様なんかに、私は…絶対、…従わない……っ!!」

そこまで言うと、御堂は肩で息をついた。

体に力を込めて言ったせいで、堰を切ったように苦痛にも似た快感が駆け抜けていく。

二度目の絶頂で体をぶるぶると震わせる御堂を、克哉は冷徹に見つめていた。

「まだそんなことを言うのか。それなら……」

半分意識を飛ばしかけている御堂を、克哉は苛立たしげに見下ろして言った。

「あんたが屈するまで、何もかも奪ってやる。あんたが、俺のところへ堕ちてくるまで…!」

遠のく意識の中、冷たく残酷な響きを帯びた克哉の言葉が、頭へ届いたような気がした。